2012/05/24

ドルチェの新潮流

トスカーナのワイン産地を巡る旅でもお馴染みの、マッシミリアーノ・フェッリ氏が、今回は
現在フィレンツェで最も注目されているパスティッチェリーア(菓子店)を紹介してくれました。

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「ドルチ・エ・ドルチェッツェ」
フィレンツェの中心・歴史地区からやや離れた場所にある、フィレンツェっ子御用達のお店。

内装はアール・ヌーヴォー様式で、フランスやベルギー風の雰囲気。
淡いミント色の色調で統一され、「お菓子箱」のような可愛らしさで溢れています。
店内は約5メートル四方とコンパクトですが、天井が高いために狭さを感じさせず、スッキリした
印象。シャンデリアがとても優雅です。

左右に向かい合うカウンターにはショーケースが置かれ、まるで宝石のようなお菓子がシンプルに
並べられていました。
その小さなカウンターに立つお客さんが、上品にお菓子を口に運んでいました。
バールというよりは、ドルチェのアトリエといった趣きです。


私たちを迎えてくれたのは、オーナーのジュリオ・コルティ氏の美しい愛娘・アンジェリカさん。
とても丁寧な説明で、お店に並んだお菓子をひとつひとつ紹介してくれました。


ジュリオ氏は、元々フォトグラファーだったといい、自宅で研究を重ねて完成させたドルチェは、
これまでのイタリアの伝統製法を覆す革新的なもので、その味は驚きそのもの!
アンジェリカさんが、「父は家でも料理がとても上手だった」と話してくれました。

私が頼んだレモンのタルトは、ヴァニラ・クリームの柔らかい味に、シロップ漬けのレモンピール
の酸味がほんのり香り、一口サイズのタルトの中に壮大な調和を生み出していました。
チーズケーキ(Cheesecake)やラズベリーのタルト(Tortina ai Lampone)なども同様に、
その繊細でまろやかな風味は、まさに「甘美」という言葉がピッタリ。


アンジェリカさんが、この日のおすすめ、リンゴのタルト(Torta di Mele)を味見させてくれました。
ブラウンシュガーの上に薄くスライスしたリンゴを幾層にも重ね、ハチミツを塗ってオーブンで
焼いたというシンプルなもの。
焼く前のタルトをわざわざキッチンから持ってきて見せてくれるなど、親切に説明してくれました。

小麦粉を一切使用していないため、リンゴの自然の甘味が口いっぱいに広がり、素材の味を
見事なまでに堪能できる逸品。
素材をミルフィーユ状に重ねた独特の食感は贅沢で、各層の間から果汁が溢れ出てきます。
上からかけた自家製クリームも、これほどデリケートなものは唯一無二といってもいいでしょう。


最後にテイクアウトしたのが、お店のシンボル、ビター・チョコレート・ケーキ(Torta al Cioccolato)。
高さ2cmほどの平たいシンプルさが特徴的で、ビター・チョコレートとパウダーシュガーの色の
コントラストがとても美しく、浮き立たせた店名にオリジナルが表れています。
キャンディのような可愛らしい包装も個性的。

食感は非常にやわらかく、しっとり。
こちらも小麦粉を使用していないので、ビター・チョコレートの濃縮された味わいそのもの。
これほど上質な味に向き合うとき、量で満足させる必要はまったくない、とあらためて実感します。
一口ごとに、時を止めて甘美の世界にいざなう味は、もはや魔法ともいうべき…。


いずれも共通しているのは、「よりシンプルな材料で、素材の味をより引き出す」という
イタリア料理にも通じる信念。
繊細な味に、丹念に手を掛けた製造工程が垣間見えますが、フランス菓子的ともいえるその
洗練されたクオリティの中にも、こうしたイタリアの味覚への美意識を感じることができます。


さて、このお店では、非常に美味しいエスプレッソ・コーヒーも飲むことができます。
エスプレッソマシンは一見では目につかないカウンターの奥に置かれていますが、
フィレンツェで最も評価の高い焙煎メーカー&バール「ピアンサ」(Caffetteria Piansa)から
卸された豆を使用。
香ばしく深みのあるエスプレッソは、ドルチェの余韻を完成させる、最後の一杯にどうぞ!


「ドルチ・エ・ドルチェッツェ」
"Dolci e Dolcezze" / Piazza Beccaria 8r


【関連バックナンバー】
トスカーナ・ワイン街道(1) - モンテプルチャーノ
トスカーナ・ワイン街道(2) - モンタルチーノ


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